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株式会社 匠話会 プロローグ

きらい を伝える。

「街中から出て、湖沿いの道を東名高速道路に向かって車で20分ほど走って、右手に白い洒落た洋館が見えてくるから、そうしたらわきの道を山間に向かって登っていくのね。あの道さ、去年までは途中から舗装なくって車だとガタガタひっどい揺れで困ったんだけど、今年は道がきれいになっているみたい。会社は儲かってるのかな、そうは思えないけどね。そんでね、そっから急な坂道ですっごい上り坂だから、すれ違いの時はすっごく焦ると思うけど、すれ違う車が青なら、ほぼ間違いなく匠会の人だと思う。だから気兼ねなくアクセル踏んで進んでいってね。それと…」

 

情報量が多すぎて一回言われただけじゃなんのことだかまったくわからなかった。こいつに聞くといつもこんなだから、できれば他の奴から話を聞きたかったんだけど、あの会社について知ってるのはこいつだけだから諦めるしかない。そうして一生懸命にメモを取りながら、僕は聞いた。

「なあ、この白い洋館てなんて名前の建物かわかる?」

「え?…知らないよ。てか名前とか要る?いいじゃんそんなの別に。そんでね…」

まあ、細かいことだし後で地図検索すればいいかと思い、続きを聞くことにする。

「上がったところが景色すっごくいいとこでさ、行くんなら私ももう一回行きたいな。けど景色はよくっても周りに人いないからね、あんたと二人っきりってのはないかな。」

「うん、ないね。そんで、そこまで行ったらもう見えるかな。」

「なにそれ。ま、いいけど。」

大体の道行きを確認できたようなので、僕は席を立って早速向かおうとした。その背に、彼女が言った。

「いいけどさ、なんで。今更話し方とか教わりに行って、それであの娘、納得するかなぁ。」

「仕方ないだろ。他の方法はもう一通り試したんだし。あとは誰かに頼るしかないの。」

そう言う僕の言葉を聞いているんだかいないんだか、彼女、南川夏美は口をとんがらせてさらに言う。

「頼るにしたって会話師とかってどうなのかなぁ。ここまでこじれちゃったら普通は警察とか弁護士でしょ。」

「そんな大げさなことじゃないでしょ。たかがちょっとしたストーキング行為だし、僕は男であの娘は学生だよ。」

「ふーん、相変わらず優しいんだね、壮太は。…中途半端に。」

その言葉を聞き流して行こうとした僕に、夏美は更に言った。

「そういうとこ、私は嫌いだなぁ。あの娘はそこがいいんだろうけど。」

その一言に何かひっかかるものがあって、僕はもう一度夏美の前の席に座りなおした。

「どういうことさ。それ。」

「そのまんまの意味だよ。相手との距離感、ちゃんと感じてる?」

「なんだよそれ、距離感ぐらい感じてるよ。」

「またまた、口ばっか。あの娘はあなたが困るくらい近しい感情をもって言い寄って来てるんでしょ。なのにあなたは普通よりずっと距離を置きたがってる。そうじゃない?」

「わかったようなこと言うなよ。」

夏美は僕の反応を見て、にやにやしながらつづけた。

「ちゃんと相手の感じている距離感を感じとって、誤解されないような態度で接することができたら、言葉だってもう少しは伝わると思うんだけどね。」

「伝わんないからこんな面倒なことになってるんじゃない。何をどう言ったってわかってくれないんだよ。」

「言った?ちゃんと。相手の何がきらいなのかとか、どうしてほしいのかも。」

 

昼下がりのファミレスは客の数もまばらで、ホールに出ているスタッフの姿もあまり見えない。広めのソファーに座ってパフェを少しづつ食らいながら、目の前の女はいよいよ性悪そうな笑顔で僕の一番苦手なところをほじくり返そうとしていた。

 

「だいたい壮太ってさ、高校の時も大学でもおんなじようなことあったじゃん。」

「なんだよ。だからその大学の時に、お前に助けてもらって、そん時にずいぶんすっきりと解決したから、今度はお前の手を煩わせないようにって思って…。」

「…ちゃんと思ったことを伝えられてる?今のだって、ずいぶんとたどたどしかったし、『お前の手を煩わせないようにと思って』って、本音じゃないよねぇ。」

ざっくりと胸を掘り返されたような気がした。

「小学校から一緒だとなんかねぇ…。まあ、こんな言い方したってわかんないだろうけど。わかんないならそれでいいやって思ってるからそれは置いといて。…壮太、あんた結局のところ自分が一番好きでしょう。」

「なに?なんで?何を根拠に?」

「そこら辺のアイドルと一緒なのよ。当たり障りのない態度で、当たり障りないように話して、当たり障りなく人との距離を置いて。だから見た目とか態度とかで、この人私に優しくしてくれるって思っちゃった娘に好かれやすいのよ。」

ズキンと胸が痛んだ。そうしてスーッと頭に浮かぶ、過去の嫌な思い出。一生懸命に封印して忘れた気になっていたけど、どうやらやっぱり忘れきれていないみたいだ。

「ほら、思い出してるでしょ。高校の時の隣のクラスにいたあの娘とか、下級生のバスケット部マネージャとか…。」

「やめて…えぐんないで…。」

「なにガタガタと震えてんのよ。そういうとこも私は嫌い。あんたさ、何様になった気になって人に接してんのよ。」

言い終わるや否や、夏美はパフェを食べていたロングスプーンを僕に向けて思いっきり振り回した。

「あ、ごめん。興奮しちゃってアイスつけちゃった。ちょっと拭くから待ってて…。」

バックの中をごそごそと探りながら言うと、夏美はハンカチを手に僕の隣に座りなおす。

「…まあ、ちっちゃい頃から何様だったからね。今更怒ったって変わりようがないのは仕方ないんだけどさ…」

髪についたバニラアイスが、ハンカチで伸ばされてプンと香り立つのが感じられた。

すき を伝える

つたない 道具

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