Happy and JOY.

Happy and JOY.

兄弟

 むかしむかし、ある所に二匹の茶トラ猫がいました。兄の名前は「Happy」 弟は「JOY」と呼ばれていました。とても仲のよい兄弟で、兄が足を挫けば弟はじっと傍に寄り添い、弟の腹が減れば、兄は飼い主に餌をくれとせがむ、そんな兄弟だったと言います。親はもともとのら猫で、最初に飼われた家のすぐ傍にある駐車場で兄弟たちを産みました。しかし、母猫が引っ越しのために一匹づつ子猫を運んでいたその間に、残っていたふたりだけが人間に見つかってしまったのです。そうしてHappyとJOYの二匹は人と知り合うことになりました。

 最初は大勢の猫たちが住む場所で、HappyとJOYは暮らし始めました。ときどき訪れる人間は、ごはんとトイレの片付けをしていきます。Happyは愛想がよく、すぐに他の猫たちにも警戒心を見せずに溶け込むことができましたが、JOYの方は怖くてそれができません。ずっと兄の傍で、まわりを警戒しながらストレスをためて過ごしていました。そうしてしばらくした頃に、人間が来てふたりはケージへといれられ、どこかに運ばれることになりました。ガタンゴトンと地面の動く音に、兄は興味津々で、弟は怖くて怖くてしかたない。そして連れてこられた場所で、ふたりは今までに見たことのない数の人間に出逢いました。大きな人間、小さな人間、色もさまざまでたてる音もそれぞれです。

 今まで見たことのないその景色に、兄のHappyは名前通り幸せな思いで浮かれはしゃぎました。時折、小さな人間が時分を指差して何事かを鳴いてもとめると、ケージから出されて、その小さな人間の手に預けられます。そのやさしい肌触りとつたない抱え方に、Happyは新鮮な喜びを覚えました。一緒になって遊びたいと、そう思いました。

 ところが弟のJOYには、その景色は怖さ以外のなにものでもありませんでした。知らない景色、知らない音、知らない人間、知らない匂い。恐ろしくてたまりません。兄と同じように、人間の子供に求められて抱かれようとされるたびに、ふーっ!!っと、威嚇して近寄るな!と叫びつづけています。手が伸びてくればふーっ!!音がすればふーっ!!しばらくそうしている内に、JOYは疲れてしまいました。

Happy

 Happy の名前は、JOYとともに、最初に保護されたときにつけられた名前です。名付け親は優しそうな人間の女性でした。なぜその名前にしたのかと聞かれ、その女性はこう答えたそうです。「二匹ともなんだか寂しそうで心細そうだったから、せめてこれからは幸せに楽しく暮らせるようにと思って。」

 外出から家に戻ると、Happyはまた部屋にいる他の猫たちと仲良く遊びまわります。今は生後3週間くらいでしょうか、まだまだ小さいとは言え、もうそろそろ暴れたい年頃です。

 ダダダダー!猫たちが大勢いる部屋の真ん中をHappyは全力で走り回っています。その後を、一回り大きな先輩猫たちが追いかけるように走っていきます。他の何匹かはその様子を黙って眺めていました。JOYは、少し高い棚の上にあがって、おとなしそうな老猫と共にいます。

 ゴロンとHappyは床に転がって、後から追いかけてきた先輩猫を牽制しました。先陣を切ってやってきた黒猫のビリーは、Happyの傍に座ると前足で応戦しはじめました。右、左、お互いの前足がぶつかり合って音をたてます。

 ビシ!と音がするたび、まわりの猫たちが何の音だろうと顔を二匹の方へ向けます。それを知ってか知らずか、Happyとビリーの対決は激しさを増していきます。バシ!ブシ!するとそのうちに、Happyの方が熱くなってしまったのか、床に立ち上がってビリーを威嚇するように毛を逆立て始めました。フー!っと、Happyの声が部屋に響き渡ります。

 その様子を見て、ビリーは左の前足を高く掲げると、Happyの脳天にゴン!っと音がするくらい強く振り下ろしました。Happyは驚きと痛みで目をまんまるに見開いて、そのまま伏せて頭を抱えるようにうずくまります。ビリーの様子はまるで「遊びでじゃれてんのに本気になるなよな。」と言っているようでした。