3. いつの間にかいつかれた猫のように、彼女は俺の部屋を自分の部屋のように暮らしている。

いつの間にかいつかれた猫のように、彼女は俺の部屋を自分の部屋のように暮らしている。俺は俺で生活をして、彼女も彼女で食べている。暮らしに困る事はないのだけれど、うーん。

なんだかちょっと日本人の俺には不自然に感じる時が、たまにある。

昨夜も同じベッドで寝て、起きたら彼女はいなかった。

別段心配もしなかったのだが、なぜだかモヤモヤっとしたものを感じて、そのせいか今日はやたらと失敗続きで職場を早くに帰されてしまった。

そうして部屋に戻ると、彼女がそこにいた。

「あれ?もう帰ってきちゃったの?」

彼女は首筋と鼻の頭に白いものがついたまま、玄関のドアを開ける俺に向かってそう一言告げると、奧へと走っていく。

どたばたと音がする中、俺は黙って自分の部屋へ足を向けた。クローゼットに背広をかけて、床にごろんとひっくりかえる。

「...どしたの?なにかあった?」

彼女が相変わらず白いものをつけたまま、部屋の入口から顔を覗かせた。

「別に...なんでもない。」

「あ、そう。じゃいいけど、しばらくリビングには入って来ないでね。」

「ここから動かないでいろと、そういうことか?」

「そう、そのまま石になってて。」

ドタバタと走っていく足音を聞きながら、窓の外に見える木立の陰影に自然と目が向いた。今日も変わりなく、太陽は東から北へ、そして今は西へと沈んでいく途中のようだ。

なんだかちょっとムシャクシャしてきた。なんであんなつまらない失敗ばかりしてしまったのだろうか?書類にインクをこぼす!?PCの電源を切り忘れる?!

どれもこれも普段なら絶対にしないのに、なぜ今日に限って...。

 

「おい!!」

俺の頭の中で、今日一番の最悪な事をしでかしそうな気配がうごめく。

「おいったらおい!」

バタバタと足音が近付いてくる。

「なによ、まだ準備ができてないんだから...」

言いかけた彼女の言葉を遮り、俺は制止する理性に耳を貸さず、最悪の一言を言ってしまった。

「いつになったら部屋を探すんだ?そういう約束だったろう。」

床にゴロリと仰向けのまま、俺は彼女に突き付けた。言葉の刃物を。

「もう半年になるんだぞ!いい加減出てけよ!お前が頼み込むからしかたなく俺は...。」

見ると、彼女の目に光るものが浮かんでいた。窓から差し込む夕陽が乱反射して、輝いているようだった。

「とっとと出てけ!そんな涙なんかには騙されないぞ!約束じゃ二ヶ月も前に出ていってるはずだ!!」

無言のまま、彼女は駆け出していった。リビングの方向へと。俺は相変わらず仰向けのまま窓の外から差し込む光を眺めている。どこか遠くでごそごそと音がした。けれど俺は動かなかった。

 

やがて数分が過ぎ、玄関のドアが開いて、閉まる音がした。

それから暫くして、俺はリビングへと向かった。

 

一体何をしていたんだ、あいつは?