1. 太陽に向かってみたら言われたとおりだった。午前中なのに…不思議だ。

太陽に向かってみたら言われたとおりだった。午前中なのに...不思議だ。

三年前から住んでいる土地での新たな発見に、なぜだか同じ年月積み上げてきたいろいろな鬱憤が一気に吹きとんだ気がした。右の頬に差す日の光が伸びかけの髭をちりちりと灼いていく。道路の歪んだアスファルトがいつもと違って愛嬌があるように感じた。いつもなら整備の悪さに頭に来て、せっかくの休日がまるまる不機嫌になっていただろう。

室内に戻ると、昨日出会ったばかりの女がベッドの上で寝息をたてていた。見た感じでは俺と同じ東洋人。ひょっとしたら日本人かもしれない。けれど昨日はそんなこと気にもとめずに夢中になって求め続けた。人恋しかったのかもしれない。なにしろ人と話をするのさえ、もう何ヶ月ぶりだろうか。

女の顔をのぞきこむと長いまつげに気がついた。寝息とともにゆっくりと上下するまつげ。少し開いた口元は薄い唇。丸みをおびた頬に小さなニキビができかけている。眠っているときの女は静かに寝息をたてている。起きていたときの賑やかさが嘘のように感じる。まあ、そんなことを言い合えるようになるまで一緒にいられたためしは無いが。だいたいのところ、半年程で女の方が去っていく。毎回おんなじ台詞を残してだ。

寝顔を飽きずに眺めていると、女は枕に顔を埋めるように寝返りをうった。まるでうちのそばで飼われている猫のようにくるんと向こう側へまるまっていく。一瞬起きたのかと思ったが、寝息のリズムは変わらない。安心しきって眠る姿に少しだけ情が移る気がした。

もう一度バルコニーへと足を向ける。昨夜女から聞いた言葉がとても新鮮だった。そんなことを考えたこともなく過ごしてきた年月が、今となっては少しだけ恨めしい。何が恨めしいのかを考えていると、背後に人の気配を感じた。

振り返るとシーツにくるまったままの女が、上半身を起こしてこちら側を眺めている。光差す外の風景を眺めているのか、俺の方を見ているのか、どちらとも解からない。

「何見てるの?」

女が言った。言葉に少しだけ好奇心が感じられる。

「言ったとおりだ、驚いた。」

俺の返事に女は「ああ。」と返事をして、シーツにくるまったまま部屋の奧へと歩いていった。返事には少しだけ笑い声が含まれていて、それが癇にさわった。さっきまで感じていた感情が嘘のようにかき消えて、顔に当たる太陽の光はいつものように何の意味もないものに変わっていく。アスファルトはこの国の愚鈍な政治の象徴に変わり、昨夜のことがひどく憂鬱なできごとへと変化していった。

「ね、どんな気分?太陽が右のほほから当たる朝ってさ、不思議でしょ?」

戻ってきた女が楽しそうに言う。声の調子からさっきの笑い声は俺を馬鹿にしたものではないと気がつき、感情の波が安定していくのがわかる。