2. 悲観主義は気分から。楽観主義は意思からはじめる。

 昼のハードな時間をなんとか乗り切って、つかの間の安らぎの時が来た。まかないに出された生姜焼きがとっても美味しかったので、気分も少しだけ上向いた気がする。

 「来栖さん、なんかパトカー来たけど。」

 調理担当の鈴木くんがお昼の休憩で行っていたコンビニから戻ってきて、そんなことを言った。

 「なによ、スズッキなんかやった?」

 「俺じゃないですよ。それよりも、来栖さんの義弟さんじゃないっすか?」

 「健吾?はぁ?なんで?!」

 「いやだって、一緒に来てますもん。パトカーに乗って。」

 「何?どうゆうこと?!」

 慌てて裏口から飛び出すと、そこに三人くらいの警察官と健吾の姿が見えた。あと他にも何人か人が集まっている。

 「健吾!なに、どうしたの?あんた何やったの?」

 言いながら人だかりの方へ駆け寄ってみると、20代くらいの若いお巡りさんが前に立って言った。

 「お知り合いですか?」

 「私の弟です!いったい何があったって言うんですか?」

 「お姉さんですか。なるほど。」

 言いながらそのお巡りさんは、ボードに載せた紙になにやら書き込んでいる。

 「こちらの方が先ほど出頭してきまして、この中で起きた傷害事件の犯人だと自供しました。今は現場検証です。」

 「何よ!傷害事件て!うちの健吾はそりゃ馬鹿だけど、けどいい大学に通ってんのよ!馬鹿なことはそりゃ山ほどしてきたけど、人様に怪我させるなんてそんなことあるわけ無いでしょ!」

 「そう言われましても、実際に被害者の方がおられますし…。」

 言われて見ると、お巡りさんの指した方向に頭に包帯を巻いている20代くらいの女性が立っている。

 「なんで、おかしいでしょ。ここのコインランドリーは昼間は誰も利用しないって有名なのよ。なんであの人がここにいたのよ。」

 「そう言われましても、実際にいらっしゃったわけですし…。」

 「馬鹿じゃないの!どうせあの娘が若いからって言うこと真に受けてホイホイ全部丸め込まれたんでしょう!」

 「そう言われましても…。あの、弟さんがですね、自分がやったと自供もありますので…。」

 「馬鹿じゃないの!ちょっと、健吾と話をさせなさいよ!」

 お巡りさんは困った顔で健吾の傍にいるもう少しだけ年配のお巡りさんに、何かを相談しに行った。

 「どれどれ、ご家族様なんですよね。」

 年配のお巡りが近づいてきた。物腰からなんとなくお巡りさんと愛情込めて言いたくない感じの、例えるなら事情聴取の時にカツ丼食べさせれば犯人はゲロするって決めつけているような、そんなおじさん。

 「弟さんに伺って、被害を受けた方と一緒に事情聴取に来ただけですから。もうすでに示談も決まってますのでどうかここは穏便に…。」

 「ふざけたこと言うなってんだよ!何が示談だ!!うちの健吾がそんなことするわけないって言ってんだろう!」

 「ちょっと!姉ちゃん!!」

 健吾がすぐ傍まで来て、珍しく私のことを姉ちゃんと呼んだ。

 「姉ちゃんが暴れるとまとまりかけた話がぶっ壊れるから。頼むからおとなしくしててくれよ〜。」

 相変わらず語尾が情けなく伸びる。これだからこの馬鹿義弟は…。

 「どういうことよ!なんであんたが出頭してんのよ!!これってあれでしょ?朝のアレが原因でしょ?」

 「そうなんだけどさ、けどそれだけでもなくて。」

 「どういうことなのよ!今すぐ説明しなさい!」

 お巡りさんがこちらをジロッと見ているのが気になるけど、何があってこんな大事になっているのかわけがわからない。

 「後で説明するから。だからとりあえず、お店戻ってね。姉さん。」

 あれ?姉さんと呼んだ。これは何だか大マジなやつだ。

 「とりあえず事情聴取を終えたら、そこで書類送検しておわりですから。」

 おっちゃんのお巡りが睨みつけるように言う。

 「そういうわけなんで、姉さん。夕方には帰るって家に連絡しといてね。」

 馬鹿健吾め!いったい何がどうなってこうなったんだかちゃんと説明しろよ!