2. 落ちたら溺れるまで3秒とかからない

 次の日から、バイトの時間が僕にはとても居心地の良いような悪いような、よくわからないふわふわとしたものになっていった。

 とにかく、あなたが視界に入る度に、あの Kiss したいと思った想いが蘇る。それじゃあいけないと思いながら、何度冷凍庫に頭を突っ込んで調理場のシェフから怒鳴られたろうか。そんな僕の気持ちを知らないあなたは、僕の奇行を見る度に小突き、そうして僕はさらに奇行が増えていく。その繰り返しだった。

 最初の数日はそんな感じで奇行になり、それから今度はうつになった。

 あなたが見えないと、今度は不安になっていて、そうして見えるとなぜか落ち込んでいた。なんでそうなるのかわからないものだから困りもので、特にバイトが終わってあなたと離れると、際限なく自分の駄目なところばかりが頭に浮かんで、なんとかしなきゃと奮い立ってみたり、かと思えば僕にはどうすることもできないと落ち込んでみたり、その繰り返しで夜も眠れなくなっていった。

 

 「おい!最近たるんでるよ。どうしたの?何か心配事でもあるの?」

 

 まさか、Kiss したいだなんて言い出せないじゃないか。だから僕はただ黙りこんで、いつものくだらない軽口もたたけなくなって、そうしてまたゲンコツで小突かれる。

 

 「なんだか女の子みたいな反応だね。…あ!さては、恋でもしたか?」

 

 ドキッとした。胸から心臓が飛び出してくるかと思った。それを悟られまいと必死になって頭を巡らせて、ようやく一言言葉にできた。

 

 「恋は落ちるものなんです。」

 

 あなたは「何お決まりの言葉吐いてんの!」と言って僕をまた小突く。それでまたさらに僕は深みにハマってしまったのを感じていた。

 

 こじらせて溺れだすと困ったことになる。それが恋のよくない一面かもしれない。